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大塚敬節先生による漢方を学ぶ基本的な心がまえ

大塚敬節先生著「漢方療法」昭和39年 174項から176項 「漢方医学を研究しようとする人のために」がオリジナルの題です。現代の本に時々引用されているものは、大塚敬節先生著「漢方医学」のもので、以下がより古い原文です。

(一)志をたてること。

たいへん古めかしい言葉で恐縮だが、まず漢方医学を研究しようとする志を立てることからはじまる。志の立て方が厚くて、真剣であれば、研究の道はおのずからひらけ、そのテンポも速いが、ちょっとした好奇心で、漢方の世界をのぞいてみようという態度であれば、十年やっても、二十年やっても、この深くて広い漢方を自分のものにすることはむずかしい。

(二)白紙になって、漢方ととりくめ。

漢方医学を研究する場合に、はじめから近代西洋医学の立場で批判しながら研究したのでは、漢方を正しく理解することはむずかしい。漢方が一応自分のものになるまで、白紙になって、この医学と取り組むことが必要である。近代医学の立場で批判するのは、漢方が自分のものにしてから、のちのことである。

(三)散木になるな。

散木は、中心になる幹がなくて、薪にしかならない小木の集まりである。漢方の世界は広いから、研究の態度を誤ると、まきにしかならない散木のようなものになってしますおそれがある。まず一本の幹になるものをえらんで、これをものにするまでは、あれこれと心を動かさないことが必要である。幹がていていと空にそびえるようになれば、枝、葉は自然に出てくる。病気を治療する方法はいろいろあり、それを巧みに応用して、病気を治すということは結構なことであるが、中心になるものがなくて、「あれもよし、これもよし」と、こじき袋のようなものになってしまう人がある。
鍼灸も漢方の一分野であり、私(大塚)は湯本先生の門人になるまでは、これにも手をつけるつもりでいたところ、先生は、傷寒論を中心にした古医方をまず自分のものにせよといわれたので、鍼灸の研究をおあずけにして、薬物で病気をなおす方面の研究に没頭するようになった。

(四)師匠につくこと

漢方のような伝統ある学術の研究には、師匠について、伝統を身につけることが必要である。はじめから伝統を無視した自己流では、天才は別として、普通の場合は、問題とするに足りない。しっかり伝統を身につけたうえでは、その殻を破って自分で自分の道をきりひらいて進むのがよい。師匠を乗り越えて、進むだけの気概がなけらばならない。
ところで、現在の日本では、師匠につきたくても、その師匠がない。師匠はあっても、いろいろの事情で制約をうけて、師匠につくことができない。このような人たちは、講習会に出るようにするとよい。東京や大阪あたりでは、ときどき講習会が開かれる。ところで、いつどこで、講習会が開かれるかは、「漢方の臨床」「漢方研究」「活」「和漢薬」などのように、月々刊行されている漢方の雑誌に、ニュースとして報道されるから、これらの雑誌の読者になっておくと便利である。これの雑誌の発行所は別項に出ているので参照してほしい。

(五)研究グループに加入すること。

漢方には各地に、研究グループがり、随時例会や総会を開いて、互いに意見を交換したり、研究を発表したりしているから、これらの会の一員になっておくと、いろいろの知見をうることもできるし、はげましにもなる。どこにどんな研究会があるかは、別項に一括してあげておく。

(六)読むべき書物。

漢方医学の根幹となるのは傷寒論と金匱要略とであるから、オーソドックスの漢方の研究は、この古典の研究に始まって、この古典の研究に終わるといってもよいほどである。ところで初心者が手軽に読んで理解できるような、これらの古典の現代人向きの注解書がないのは遺憾である。来年になれば、私が執筆中の傷寒論の入門書が刊行される予定。
はじめから難解なこの古典ととりくむのは、(一)のところで述べたように、志を立てることの厚い人でなければ、とうていやりとげることはむずかしい。そこでまず実際の診断、治療を書いた現代人の書物から読み始めるのがよい。これらの書物で入手しやすいものを別項にあげておいたから、自分で選択して読むとよい。
現代人のものを読んだら、次になるべくわれわれの時代に近い人のものから、逆に古い時代の人のものにさかのぼるのがよい。
とくに浅田宗伯の勿誤薬室方函とその口訳、橘窓書影、古方薬義、尾台榕堂の類聚方広義と方伎雑誌、本間棗軒の内科秘録、和田東郭の蕉窓雑話、有持桂里の方輿ゲイ、稲葉文礼の腹証奇覧、和久田叔虎の腹証奇覧翼、吉益東洞の薬徴などは、ぜひ読んでおく必要がある。

 
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