漢方嫌いであった医師による漢方の魅力を語るサイト
 

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漢方薬って本当に効くの? 血管外科の立場から

器質的疾患のない冷感に当帰四逆加呉茱萸生姜湯を

動脈閉塞の初期段階は教科書的には冷感です。よって冷感を訴える患者が多数わたしの外来を訪れます。しかし、動脈拍動が触れれば、動脈閉塞による冷感はあっさりと否定されます。そのような器質的疾患のない冷感の患者に対する治療法を以前から探していました。まず抗血小板剤のひとつであるサルポグレラートが器質的疾患のない冷感に有効ではないかとの印象を持っていました。そして漢方薬を使用するに至って漢方薬も西洋薬であるサルポグレラートに遜色なく有効であるとの印象をもちました。この仮説を説得力をもって他人に説明する方法を考えるために、まず器質的異常のない、つまり自覚症状のみで冷えを感じている患者の冷え症の程度を客観的に評価するために、冷え症質問票を開発しました。これは、約800人の健常成人の協力のもと、文献的に評価指標と思われる約70項目から、VASスケールとの相関で、相関傾向が高い10項目を選びました。そして、再現性と有効性を確かめるために合計3回の質問票の統計学的解析を行い、質問票を開発しました。今回はVASスケールのみの結果を供覧します。VASスケールはVisual analogue scale で10cmの線の両端にゼロと10があり、ゼロはまったく症状なし、10は考えられる限りで最高につらい冷えとしてあります。患者さんが診察前にそのスケールを自分でマークします。プロトコールは器質的疾患のない冷感の患者にまず2週間のサルポグレラートの投与、次に2週間の当帰四逆加呉茱萸生姜湯の投与です。漢方診療はこの期間はまったく行わず、オートマチックに上記処方を選択します。その結果は、薬剤投与前は7.6であった冷えスケールが、2週間のサルポグレラート投与後は6.5に、さらに次の2週間で当帰四逆加呉茱萸生姜湯投与後は5.4に低下し、明らかな冷え症の客観的改善が認められました。サルポグレラートによる効果のあとにさらに当帰四逆加呉茱萸生姜湯が効果を示したことになり、サルポグレラートの効果がプラセボ効果としても、更なる改善が当帰四逆加呉茱萸生姜湯にて得られたことになると思います。機会があれば当帰四逆加呉茱萸生姜湯をカプセル剤にして二重盲験試験として当帰四逆加呉茱萸生姜湯の器質的疾患のない冷え症に対する効果を、冷え症質問表を用いて行いたいと思っています。

腰椎麻酔後頭痛の漢方による予防効果

手術となる血管外科疾患でもっとも頻度の高いものは下肢静脈瘤です。愛誠病院下肢静脈瘤センターでは2007年に約2200人の下肢静脈瘤の初診があり、713人の手術を行いました。あるものは局所麻酔による日帰り手術で、あるものは腰椎麻酔による入院手術でした。この腰椎麻酔の患者さんに腰椎麻酔後頭痛予防のために五苓散を手術後7日間投与し、7日後に頭痛の有無を聞き取り調査しました。五苓散非投与群では53人中6人に頭痛が現れ、五苓散投与群では53人中に13人に頭痛が現れました。明らかに五苓散を予防的に投与したほうが頭痛の発生頻度が高くなりました。そこで次に呉茱萸湯を同じように投与しましたが、22人中8人に頭痛が生じました。五苓散も呉茱萸湯も腰椎麻酔後の頭痛の発生防止にはかえって悪影響に働いたことが判明しました。

伏在静脈抜去後の皮下出血に対する桂枝茯苓丸の効果

下肢静脈瘤の原因の7割は大伏在静脈の拡張に引き続く逆流です。そこで根治手術はまずこの大伏在静脈を引き抜くことです。この大伏在静脈抜去後の皮下出血の予防効果を期待して桂枝茯苓丸を7日間投与しました。漢方の教科書には皮下出血は瘀血であり、皮下出血には桂枝茯苓丸が有効との記載がときどき見られます。そこで7日後の大腿部の写真を連続的にすべて撮影し第三者に比較検討してもらいましたが、桂枝茯苓丸による皮下出血の軽減効果は明らかにできませんでした。

Web type下肢静脈瘤(細絡)に対する桂枝茯苓丸の効果

手術にならない下肢静脈瘤にWeb typeの下肢静脈瘤があります。大腿に多く、ミミズがはったような、くもの巣のような毛細血管の拡張です。漢方の本ではこれを細絡と呼んでいます。今までは、Web type下肢静脈瘤に対しては放置しても問題ないが希望があれば静脈瘤の硬化療法を行うと説明していました。静脈瘤の硬化療法は細い針で静脈内に硬化剤を注入し固める治療です。上手くいけば本当によくなりますが、人によっては硬化療法部に色素沈着を生じ、かえって目立ってしまうことも散見されました。そこでこの細絡に対して希望者に桂枝茯苓丸を与えました。すると1から数ヶ月の投与で8人中6人が本人自身も、医師もWeb type下肢静脈瘤が薄くなったと体感できました。硬化療法をする前にまず、Web type下肢静脈瘤(細絡)に桂枝茯苓丸を投与してみる価値は十分にあると思われます。

下肢静脈瘤の症状(おもい・だるい・つる・むくむ)に対する桂枝茯苓丸の効果

下肢静脈瘤の臨床症状の末期は潰瘍を伴うような皮膚病変です。皮膚病変に至るまでに手術を行うか、または進行防止の医療用弾力ストッキングの着用をすれば大事に至りません。下肢静脈瘤を医療用弾力ストッキングで進行防止している患者さん、または手術までに時間がある患者さんは、おもい、だるい、つる、むくむなどの訴えを持っていることが多いです。そこでそのような患者さんに桂枝茯苓丸を与えたところ、7人中5人が効果があったと言ってくれました。患者さんの申告による評価にて客観的ではないですが、少なくとも自覚症状を含めて患者さんの訴えは改善しています。漢方薬の効果によるものと認めていいと考えています。

深部静脈血栓症に対する柴苓湯の効果

深部静脈が血栓閉塞する病態を深部静脈血栓症といいます。最近はエコノミークラス症候群として認知されている肺梗塞の原因病変として有名です。肺梗塞の9割以上は下肢の深部静脈血栓症が原因と考えられています。深部静脈血栓症は急性期であれば血栓溶解療法などを行いますが、慢性期では血栓の溶解は期待できません。一方で慢性期の器質化した血栓が肺梗塞の原因となることもありません。そこで、慢性期は医療用弾力ストッキングなどでしっかりと下肢の圧迫を行い、側副血行路が筋肉内に、つまり表在静脈に生じないようにします。これを怠ると深部静脈血栓症による2次性の下肢静脈瘤となり、この場合は下肢静脈瘤が側副路となっているので手術的に取り除くことができず悲惨な状態を招きます。慢性の深部静脈血栓症は静脈の鬱滞も激しく、おもい・だるい・つるなどの症状を訴えます。そこでこのような患者さんに柴苓湯を投与しました。残念ながら症例数が多くなく、また全員が漢方を飲んで良くなったと言う訳でもなく、明らかな評価には時間がかかりそうです。

リンパ浮腫に対する防已黄耆湯の効果

下肢が腫脹する病気で、深部静脈血栓症が超音波検査や静脈造影で否定されると、多くはリンパ浮腫という診断になります。ある意味「ごみばこ診断」ですが、リンパ浮腫の治療法が圧迫加療しかないので臨床的にはこれで十分です。内服薬は明らかに有効なものはなく、外来でも励ますほかには対応がない状態です。このリンパ浮腫に防已黄耆湯を使用してみました。すると17人中14人が「あれはいい薬です」と言ってくれました。本当に効果があったのだと思っています。リンパ浮腫が軽い3人は廃薬となりましたが、多くの患者さんは積年のリンパ浮腫にて正常になることなく、また一時期よくても治り方がプラトーになります。そこで「最初は良かったが最近はあまり効かなくなった」と言った患者7人に柴苓湯を与えたところ、5人がさらに良くなったと言いました。内服治療薬剤がないリンパ浮腫ですが、防已黄耆湯と柴苓湯は試してみる価値がある漢方薬と思われます。

漢方診療の重要性

上記の臨床研究は漢方診療を行わずに病名投与を行いました。冷え症には当帰四逆加呉茱萸生姜湯、下肢静脈瘤には桂枝茯苓丸、リンパ浮腫には防已黄耆湯または柴苓湯といった具合です。漢方診療、つまり隋証治療を行う理由は、Responder と Non-responder を分けることと、副作用の防止のためと思っています。幸い今回使用した漢方薬剤はほとんど副作用がないので、このような臨床試験ができました。しかし本当の漢方医療を行うにはしっかりと漢方の勉強をする必要を感じます。病名投与でもこれだけ効くのであるから、漢方診療に基づいた投薬はもっと効くと思います。しかし、漢方診療に基づいた投薬がさらに有効であることを、以前のわたしのような漢方拒否症の医師にわからせるには工夫が必要と思っています。漢方嫌いから漢方のとりこになった私だからこそ、なんとかひとりでも多くの方に漢方のすばらしさをわかってもらえる努力を積み重ねたいと思っている今日この頃です。
最後になりましたが、わたしの漢方診療の師匠であり、一個人としてもすばらしい先輩である松田邦夫先生に心から深謝いたします。

 
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